皆様よりご質問を受けるボーカルに関するヒントをご紹介するコーナーです。
声・この唯一無二にして最強の個性
2023年 8月15日
皆さんは集団でおしゃべりをしている声を録音した事があると思います。
そして何故か自分以外のお友達の声はどなたか判別がつくでしょうが、自分の声を聴いたとしても理解できない事と思います。
しかし、真逆にお友達はあなたの声や会話の内容を理解しています。
この現象は何故起きるのでしょうか?
それはあなたがお友達の声を第三者の耳で捉えて、その個人差を理解しているからに他ならないからなのです。
自分の声を客観的に聴く手段と冷静さを持ち合わせていないから、自分の声が「解らない」のに他なりません。
そして歌声を録音して聴くととてもか細く、カラオケ採点機で高得点を取っているにも関わらず、
ご自分の声が好きになれない上、歌うのが嫌になってしまう。
そんな経験をしている方が多い事でしょう。
プロのシンガーは自身の歌声をレコーディングで軽く100回以上はモニタリングしていると思います。
鍛えぬいた客観的な耳を持っているのです。
歌うという事は発声器官により形作られた声を、自分の体内の響きも同時に聴きながら空気振動として空中に放散する行為です。
なので、第三者に伝わる歌声と歌っている最中に自身で感じ取っている歌声に、差異を感じるのは当然なのです。
そこで、喉頭のポジションを可変して自分の演じる「納得いく声を創る」というプロセスが必要になってきます。
声優さんのお仕事がそれですね。
キャラクターを演じる為にそれぞれの配役に即した声を「創り」ます。
ボーカリストは物語を演じる役者です。
なのでボイストレーニングは歌う人、演じる人には必要不可欠になってくるわけです。
私のレッスンでは、「肥えた耳を養うトレーニング=イヤートレーニング」の一環として、ご自身の歌をスマホで録音する事をお勧めしております。
それを日々のレッスンで繰り返す事で、客観的にご自身の声を第三者に接近した立ち位置で判断する材料として利用して頂きます。
そして徐々に「聴く耳=聴音能力=客観的モニタリング能力」が身に着いてまいります。
ボーカルという楽器の仕組みを理解しよう
2023年 9月5日
声帯の仕組みを理解する事から紐解いてみましょう。
声に関わるその仕組みは、甲状軟骨と輪状軟骨に繋がれた声帯を扱うことにあります。
声帯という「弦」を引っ張ると音が高くなり、緩めると音が下がります。
甲状軟骨と輪状軟骨はギターのブリッジとペグ(糸巻)の関係です。
ピックで声帯という弦をつま弾くことと同じ動作は、呼気を送り込む事により成立します。
弦楽器と管楽器のハイブリッドが発声器官の仕組みです。
そして言葉の差別化や、明瞭化を行うのが歯と舌と唇です。
特に母音ではなく子音に於いてそれは顕著であります。
歯や舌や唇の支配から解放された言葉の発音は、全ての子音が母音に接近し立ち返るという性質から、母と子の関係として言語の配列を例えたわけです。
声量を付加し、それを増幅するのが共鳴腔(胸郭・咽頭腔・喉頭腔・鼻腔等)です。
共鳴は身体各部を含め全身で作られ、一部分のみでクリエイトされない事から、あえて頭声区(ヘッドボイス)・胸声区(チェストボイス)等の切り分けは意味を為さないと考えます。
冷静にトーンのみで分類します。
無駄なく全身共鳴が得られると、かなりの声量を獲得する事ができます。
スピーカーボックスとスピーカー本体の関係に等しい動物と人類の発声器官。
スピーカーを鳴らした状態から分解すると理解できるのですが、鳴っているスピーカーボックスからスピーカー本体を取り外すと、とたんに音のボリューム感が無くなる事にきっと驚くことでしょう。
前後長がたかだか2cm内外のミニマムな声帯ですが(身長、性差、年齢に左右されます)、楽器としての機能をフル活用したら幅広い表現が可能です。
声の奥行き感に関わるのは喉頭のポジションの取り方に支配されます。
喉頭(アダムズアップル)を上げると明るいトーンに、下げると重いトーンに変化します。
表声(ソリッドボイス)、ミックスボイス(ソリッドボイスとファルセットボイスの中間的なもの)、裏声(ファルセットボイス)は声帯の開放の状態により作られます。
その差は声区=喚声点(ブレイクポイント)により区別されます。
声が裏返らず換声点の支配から解放され、声区を滑らかに繋げられるようになると楽器として高機能なものに仕上がります。
よく「喉を開けなさい」と曖昧な言葉で要求され困惑した体験があると思いますが、それは言い換えると仮声帯を拡げ共鳴腔を活用しなさいという事です。
響きの良い声を創るには、共鳴腔を活用できるように、そこが肝要となります。
仮声帯を拡げ活用したファルセットボイスを大切にする事がきっかけとなるでしょう。
声域の拡大もファルセットボイスにより可能となります。
それは革新的なラウドロックやブルーズ、ソウル等の発声方法や、デスボイス(ガテラル・グロウル・スクリーモ等)においても基礎的に活用されます。
裏返っちゃって良かったね?!
2024年7月9日
歌っていて皆さんもいきなり声が裏返った(ブレイクした)経験をお持ちだと思います。
この「裏返る」現象は声帯に如何なる状況が起きるのでしょうか?
声帯は力学的に呼気が押し上げる力に負けると上方方向にめくれる仕組みになっております。
正に「裏返る」わけです。
これは我々に生来から備わっている、声帯の「安全装置」、いわば保護反応なのです。
過負荷を避けようと声帯が裏返る仕組みになっている訳です。
楽器に安全装置がついているイメージでしょうか。
歌い表現する行為において、非常に厄介な現象として、ブレイクは忌み嫌われます。
しかし、視点を変え逆利用すると、自分の弱点発見につながります。
特定のブレイクポイントを把握し、それを乗り越える「換声点の解消」を目標としたトレーニングを積む事により、声区の壁をシームレスに乗り越え、柔軟な表現が出来るようになります。
「裏返っちゃって良かったね」!!
自宅にピアノが無くっても
2024年7月20日
ボーカルを志す方で楽器の心得の無い方も沢山いらっしゃる事でしょう。
カラオケ文化の浸透と共に、「歌う」という楽しみ方が浸透しました。
音楽を奏でるという条件を満たす為に、楽器が自宅に備わっている事が必須条件ではありますが、音を出せる楽器の購入をためらっていらっしゃる場合は、スマホのアプリを補助的に使ってみるのも一興かと思います。
折角、スマホの携帯アプリを使える環境でしたら、それを活用しない手はありません。
ピアノプレイのアプリをインストールして、その音を拾い発声して補助的に練習してみるのもアリです。
自宅で大きな声で発声練習できない場合、ハミングを用い、唇や舌、歯の力を抜き、声帯へ呼気を流し込み声帯本体の力みを極力排除して低音域~高音域まで滑らかに発声出来るように整えるとボイトレの一助となり得ます。
日常時間を有効活用し、工夫しながら音楽を楽しまれると良いでしょう。
ミドルエイジ以降(シニア)のボイストレーニングの効果
2024年9月4日
趣味で歌う事を楽しまれている方も多いですが、歌う事は若者達だけの特権ではありません。
近頃では、憧れの存在だった歌手やバンドの曲を歌いたい方も、手軽に街中のカラオケ屋さんで歌える時代です。
個人的に楽しめる歌うという行為。
世代や年齢問わず、素晴らしい芸術的活動といえるでしょう。
更に様々な健康効果も同時に手にする事が出来ます。
①呼吸機能の向上
歌うことで深い呼吸が促され、肺の機能が改善されます。
また、呼吸筋の強化にもつながり、呼吸器疾患の予防に役立ちます。
②認知機能の改善
歌を覚えたり歌詞を思い出したりすることで、記憶力や集中力が高まります。
また、音楽を通じた脳の活性化により、認知症の予防にもつながる可能性があります。
➂精神的健康の向上
歌うことはストレス解消やリラクゼーションにつながります。
また、集団で歌うことで社会的なつながりが強化され、孤独感の軽減や幸福感の向上に寄与します。
④感情表現の促進
音楽を通じて感情を表現することができ、感情の浄化や自己表現が促されます。
よって、精神的な安定感が得られやすくなります。
➄身体的健康の維持
歌うことによって全身の筋肉が使われ、血行が良くなることで、体調の維持や疲労感の軽減が期待されます。
⑥音楽による嚥下機能の改善
発声や歌唱が嚥下機能の改善向上に関与することが証明されています。
発声活動は、嚥下に関与する筋肉群(舌、喉頭、咽頭筋など)を効果的に鍛えるため、誤嚥のリスクを軽減します。
また、声帯の動きをコントロールすることで、嚥下時の気道閉鎖がより効果的に行われるようになります 。
特に高齢者や脳卒中後のリハビリ患者において、歌唱や発声練習が嚥下機能を改善する効果があることが報告されています。
結果的に、誤嚥性肺炎の予防にもつながるとされています 。
歌う行為は深呼吸や息を長く吐くことを要求するため、呼吸筋と同時に嚥下に関わる筋肉を強化します。
これにより、嚥下時の反射やコントロールが改善されるとともに、誤嚥の予防効果が得られることが示唆されています 。
出典 : Journal of the American Geriatrics Society
Nordic Journal of Music Therapy
Journal of Rehabilitation Medicine
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